痛みと傷み。

子宮の周りの臓器が癒着を起こしている。ひきつれて、歩くのもままならない。脂汗を流しながら痛み止めを飲むために、一歩一歩足を引き摺るようにしてキッチンでへたりこむ。ビニルクロスの床が冷たくて頬に気持ちいい。寝そべったまま薬箱を手探りで探す。お水を冷蔵庫から出そうと、起きあがろうとするたびに目の前が群青色になって幾何学模様が見える。前はびっくりしてその度に救急車呼んだりしてたけど、今は黙って我慢することを覚えた。
寂しくて、痛くて、涙がこぼれる。この「治療」の先に私の家庭はあるのかな。ちっちゃくてふにゃふにゃで、首もすわってなくて違う生き物みたいで抱っこするのも怖いくらいのちいちゃい赤ちゃんは私から産まれてきてくれるのかな。涙が後から後からこぼれる。涙を吸わないビニルクロスの床の代わりに髪が涙を吸って顔に貼りついて気持ちが悪い。
痛くてひきつけた足があたってワゴンからトマトジュースの缶がバラバラ落ちてきて情けなくてまた泣く。泣いてばっかりだ。痛み止めを2錠のとこ4錠、ぬるいトマトジュースで流し込む。ぬるくて生臭いトマトジュースって経血みたい。出産のときってもっともっと血が流れるんだろうね。痛いだろうね。でも、いいよ。愛する人との2人の子供が産めるなら、どんなにしてでも健康な赤ちゃんを生きて産んで見せる。だからお願い。神様、もし神様がいるなら、私に赤ちゃんを産ませてください。やさしいあの人の。